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生物科学研究所 井口研究室
Laboratory of Biology, Okaya, Nagano, Japan

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井口研究室の紹介

井口豊,生物科学研究所・所長

井口 豊 (Yutaka Iguchi)

1. 生物科学研究所の環境

生物科学研究所は,長野県岡谷市の諏訪湖の近くにある研究教育機関です。冬季にはコハクチョウ(Cygnus columbianus bewickiiが飛来し(図1),最近では,アメリカコハクチョウ(C. c. columbianus)も見られるようになりました(諏訪湖に飛来したアメリカコハクチョウ )。厳冬季には,全面結氷した湖面が 筋状にせり上がる「御神渡り(おみわたり)」現象(図2)が見られます。

岡谷市・横河川河口,諏訪湖のコハクチョウ
図1. 諏訪湖のコハクチョウ(岡谷市・横河川河口).
諏訪湖の御神渡り(おみわたり)
図2. 諏訪湖の御神渡り(おみわたり).

生物科学研究所の周辺には多く文化施設が存在し,岡谷蚕糸博物館(シルクファクトおかや)市立岡谷美術考古館イルフ童画館カノラホールなどがあります。

地質学的に見ると,本地域はフォッサマグナ地域の西縁部にあり,糸魚川-静岡線系の活断層が複数存在します。その一つ,岡谷断層は,岡谷市役所からの敬念寺を通り,地表でも段差が明瞭に見られますが,トレンチ調査が行なわれた結果,過去の複数回の活動が明らかになっています(岡谷市で発見された糸魚川-静岡線に関連する活断層:岡谷市役所-敬念寺断層 )。

熊本地震では,NHKと日本活断層学会の調査の結果,活断層から1km以内に,建物全壊となるような甚大な被害が集中していることが判明しました。しかしながら岡谷市は,活断層存在の可能性を承知しながら,敢えて調査もせずに,岡谷市看護専門学校を新設しています。岡谷市は,事前にリスク評価を行なわず,学校を建ているのです(岡谷市看護専門学校(旧塩嶺病院)直下の活断層 )。

さらに,活断層というわけではありませんが,岡谷市北部の山中にある象神崖は,岡谷市のランドマーク的な存在であり,デリシア岡谷店から,はっきりと見られます(象神崖(岡谷市横河川):糸魚川-静岡構造線との関連? )。

2. 研究のメインテーマとその周辺領域

生物科学研究所の井口研究室では,主として,長野県とその近県の昆虫の生態・形態・行動・進化などを研究しています。昆虫の進化や分布に注目し,それらと環境との関わりを,生息地の気温や食物のような比較的ミクロな要因だけでなく,広範囲にわたる地形や気候の変動要因まで考慮に入れて解明しようと考えています。そのため,地域特有の生物相を保護していく生物多様性保全(Biodiversity Conservation)という考えを重視しています。

長野県における生物多様性の現状と保全状況に関しては,長野県環境部自然保護課の長野県の生物多様性のウェブページにまとめられています。

特に,そのページ上から1/4付近の遺伝子の多様性という部分に注目して下さい。日本のゲンジボタルが,その明滅周期から見て,東西で4秒型と2秒型に分かれることは,かなり以前から知られていました。しかしな長野県には,独特な3秒型ゲンジボタルが分布することも明確に分かってきました。

この3秒型のゲンジボタルの存在と辰野町松尾峡における外来ゲンジボタルの繁殖を生態的・遺伝的に解明したのが,私たちの研究でした。その研究成果に関しては,長野県環境保全研究所発行の長野県生物多様性概況報告書に,次に挙げる論文が,Iguchi (2009, 2010) として引用されています(本文 p.26, 38, 56, 文献番号 94, 95)。

Iguchi Y (2009)
The ecological impact of an introduced population on a native population in the firefly Luciola cruciata (Coleoptera: Lampyridae)
Biodiversity and Conservation, 18: 2119-2126.

Iguchi Y (2010)
Temperature-dependent geographic variation in the flashes of the firefly Luciola cruciata (Coleoptera: Lampyridae)
Journal of Natural History, 44: 861-867.

このような遺伝的多様性も,保護すべき生物多様性の重要な要素なのです。辰野町における,外来ゲン辰野の移入(外来)ホタル 生物多様性の喪失へジボタルの移入養殖の歴史と現状に関しては,生物科学研究所研究報告 第1号 辰野の移入(外来)ホタル 生物多様性の喪失へを参照して下さい。

長野県内では,辰野町と同様に外来種ゲンジボタルが生息する地域として,全国的にも有名な上高地が挙げられます。ここの外来種ゲンジボタル駆除を巡っては,2014年8月17日放送のテレビ朝日・サンデースクランブル美しいホタルを駆除へ・夏の風物詩に何がに,私も出演し意見を述べました。上高地のゲンジボタルが,辰野町松尾峡と同起源の外来種であることを学術的に明らかにしたのは,私(井口豊),三石暉弥・長野ホタルの会・前会長および福井工大・草桶秀夫研究チームによる共同研究の成果です。

日和佳政・大畑優紀子・草桶秀夫・井口豊・三石暉弥 (2010)
遺伝子解析による移植されたゲンジボタルの移植元判別法
全国ホタル研究会誌 40: 27-32.

ウェブページ
上高地,志賀高原,辰野町のゲンジボタル:その駆除を巡って

外来種ホタルを養殖し有料で見せる辰野町の姿は,2016年7月8日に放送されたTBSドラマ神の舌を持つ男,第1話殺しは蛍が見ていたのモデルとなり,県外で買ってきた外来種ホタルを地元のホタルと称して観光利用する町として放送されました(ドラマ神の舌を持つ男・殺しは蛍が見ていた,辰野町がモデル)。番組中の外来種ホタルの生態については,私が監修し,番組終わりの字幕に,ホタル生態協力 生物科学研究所 井口豊と記されました。

井口研究室では,ホタルと並び,日本人に最も親しまれている昆虫として,カブトムシとクワガタムシに注目し,それらの形態,生態および行動の研究にも力を入れています。最近では,これらの昆虫類が,日本における文化昆虫学を考察する上でも重要だと考えられるようになってきました。文化昆虫学に関しては,その第一人者である高田兼太氏の以下の論文が参考になります。

高田兼太 (2011)
甲虫と人類の文化―ホタル科の文化昆虫学概説
さやばねニューシリーズ, 29, 25-31.

例えば,カブトムシ(Trypoxylus dichotomus)の雄の角のサイズが2型(horn dimorphism)であることは,かなり以前から知られていました。しかし,それが幼虫時代の栄養によって異なる相対成長(アロメトリー, allometryとなることを発見したのは,私の研究室です。

Iguchi Y (1998)
Horn dimorphism of Allomyrina dichotoma septentrionalis (Coleoptera: Scarabaeidae) affected by larval nutrition
Annals of Entomology Society of America, 91: 845-847.

また,カブトムシの,いわゆる同性愛行動(homosexual behavior or same-sex behaviorを発見し,研究を進めたのも,私の研究室においてでした。

Iguchi Y (1996)
Sexual behavior of the horned beetle,Allomyrina dichotoma septentrionalis (Coleoptera,Scarabaeidae)
Japanese Journal of Entomology, 64: 870-875.

Iguchi Y (2010)
Intrasexual fighting and mounting by females of the horned beetle Trypoxylus dichotomus (Coleoptera: Scarabaeidae)
European Journal of Entomology, 107: 61-64.

さらに最近では,従来,2型であると思われていたコクワガタ Dorcus rectus の大顎サイズの変異が3型であることを指摘しました。

Iguchi (2013)
Male mandible trimorphism in the stag beetle Dorcus rectus (Coleoptera: Lucanidae)
European Journal of Entomology, 110: 159-163.

人間を含めた生物の生態系の成立や変遷に大きな影響を与える地形・地質の調査も随時行なって発表しています。岡谷市西北部の地滑りおよび断層地形については,次の論文とウェブページを参照して下さい。

井口豊(2013)
長野県岡谷市の塩嶺西山地域における断層と地すべり地形
日本活断層学会 2013 年度秋季学術大会講演予稿集, 60-61.

ウェブページ
長野県岡谷市の塩嶺西山地域における断層と地すべり地形:日本活断層学会2013年度大会発表

前述のようなテレビ出演や番組監修に加えて,講演活動も行なっています。例えば,辰野の外来ホタル養殖の問題点については,2008年5月25日に,長野市で講演を行い,辰野町以外の人々にも,これを広く知ってもらうきっかけとなりました(信濃毎日新聞,2015年8月28日)。

同様なテーマで,2009年の第5回信州ホタル保護連絡会(長野県男女共同参画センター・あいとぴあ,長野県岡谷市)でも,私が講演し,地元紙の長野日報 2009年8月24日1面で取り上げられました(移入ホタルの何が問題か? 辰野町松尾峡を例として)。

これに関連し,2015年10月10日には,辰野町が松尾峡の観光用ゲンジボタルを購入した場所である滋賀県守山市のほたるの森資料館に招かれ,天竜川上流のゲンジボタルの生息変化,辰野のゲンジボタル移入養殖と他県への移出の歴史,ゲンジボタルの生態的多型とフォッサマグナや糸魚川-静岡構造線との関連などを講演しました(辰野のホタル 町おこしと保護の課題 - 滋賀県守山市・環境学習会)。

2019年10月27日には,信州環境カレッジ「上松町ホタル講習会」が,大相撲 御嶽海の故郷でもある木曽郡上松町で開催され,私が講師として招かれ,上松町のゲンジボタルは,いつ,どこから来たのか?をテーマに講演してきました。上松町のゲンジボタルの調査結果は,全国ホタル研究会誌に掲載されました。

井口豊 (2020) 長野県上松町のゲンジボタル.全国ホタル研究会誌 53: 23-24.

3. 教育および研究協力

井口研究室の教育内容や,他機関との研究協力に関しては,教育と研究協力のページを参照してください。

4. ロゴについて

生物科学研究所ロゴ 生物科学研究所(Laboratory of Biology)のロゴマークです。

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