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生物科学研究所 井口研究室
Laboratory of Biology, Okaya, Nagano, Japan
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生物科学研究所研究報告
更新:2019年6月9日

辰野のホタル 町おこしと保護の課題 - 滋賀県守山市・環境学習会

井口豊(生物科学研究所)

に,滋賀県・守山市ほたるの森資料館で開催された2015年度第1回環境学習会に講師として招かれ講演してきた。

タイトルは
ほたるの町 辰野(長野県)でのほたる育成の取組み -- ほたるによる町おこしと生態系保護の課題 --
である。

滋賀県守山市ほたるの森資料館「辰野のホタルによる町おこしと保護の学習会」パンフレット。

当日は,パワーポイントで解説したが,ここでは,上記のタイトルをクリックすればPDFで読める。ただし,ファイルを圧縮したので,やや画像が粗い。

私の講演に先立って,館長の竹内辰朗さんから,辰野のホタルと守山の関係,および,私の紹介の話があった。私が竹内さんと知り合ったのは,全国ホタル研究会・第45回大会(鹿児島県霧島市)であった。

ほたるの森資料館館長,竹内辰朗氏が,ほたるの町 辰野と守山の関係を紹介する様子。

続いて,私の講演では,最初に,文化昆虫学者・高田兼太が,日本人が異常なほどホタル好きであることを明らかにした論文の紹介から始めた。

Takada, K. (2010)
Popularity of different coleopteran groups assessed by Google search volume in Japanese culture-extraordinary attention of the Japanese to “Hotaru” (lampyrids) and “Kabuto-mushi” (dinastines) (Cultural entomology).
Elytra, 38: 299-306.

Takada (2010) の研究は,日本人が異常なまでにホタルが好きであることを明らかにした。

日本では,なぜホタルが盛んに保護されるのか,そして,なぜその移入問題が起きるのか,その理由は,高田の研究成果を見れば明らかであるし,この研究に触れることなくホタルの保護や移入の問題を語ることはできない。

守山市から移入したゲンジボタルの影響で,辰野町松尾峡の在来ゲンジボタルが絶滅してしまったこと,その移入ゲンジボタルを増殖させ県外へ移出を行なっていることなどを解説すると,講演後に,出席者から興味と驚きを持った多くの質問が投げかけられた。

辰野町が松尾峡において,守山市の業者から購入し移入したゲンジボタルを観光用に養殖していることや,辰野町が増やしたホタルを県外に移出していることに関しては,以下のウェブページも参照してほしい。

また,天竜川上流では,かつては全体でホタルの乱舞が見られたこと,また,天竜本流では生息できなくなったホタルも,それに沿う用水路では,松尾峡より上流地域にも生息していることなど紹介した。これらのことは,以外と知られていない。

ホタルが見られなくなったというが,実は,松尾峡のようなホタルの「観光名所」が宣伝されるようになったために,その他の小規模生息地が見逃されている現状も指摘した。これは,日没後,夕涼みに出歩く習慣が少なくなったことも影響している。

「観光名所」の大規模ホタル集団が有名になり,その保護が声高に叫ばれるのとは裏腹に,身近な小規模ホタル集団が見逃され絶滅の危機に瀕するという皮肉で逆説的な事態も起きつつある。生物多様性保全 (Biodiversity conservation) の観点からすれば,むしろ,身近な小規模ホタル集団を見守っていくことのほうが大事だとも言えるのである。

講演では,ゲンジボタルの明滅周期の3型とフォッサマグナや糸魚川-静岡構造線といった地質構造との関連にも触れた。この点にも,非常に関心が持たれた。以前は,糸魚川-静岡構造線を境界にして西日本2秒型と東日本4秒型に分かれると考えられていたが,現在では,私の研究でフォッサマグナ地域には3秒型(中間型)が広く分布することが分かってきた。それに関しては,以下のウェブページも参照してほしい。

ほたるの森資料館は,琵琶湖の南岸近くに位置する。

滋賀県・守山市ほたるの森資料館パンフレット表紙。

パンフレット表紙中央付近に遠景で見られるのが,ほたるの森資料館である。

滋賀県 守山市ほたるの森資料館の建物の遠景を示す。

表紙中央のマスコットキャラクターは,「もぴか」と呼ばれる。

滋賀県・守山市ほたるマスコットキャラクター「もぴか」の画像。

ほたるの森資料館ホームページから,ページフレーム(左側)下の「もぴかのお部屋」を辿ると,もぴかに関する情報が得られる。

日本のホタルの保護・飼育・調査研究の先駆者であり,全国ほたる研究会初代会長を務めた南喜市郎は守山市出身である。第1回全国ホタル研究会大会は,守山市で開催された。南喜市郎の業績は,この資料館に展示されている。

さらに,守山市は,第33回全国ホタル研究会大会が開催された場所でもある。下の写真は,その時に購入した大会記念ホタルコップである。

第33回全国ホタル研究会大会(滋賀県守山市)の記念ホタルコップの写真

こういう記念コップは,その後の大会では,ほとんど販売されなくなった。

ほたるの森資料館については,今回の環境学習会の内容と合わせて,旅行クチコミサイト「トリップアドバイザー」でも紹介した(日本のホタル名所の原点であり,滋賀県のホタル保護研究拠点でもある)。

長野県の志賀高原・石の湯では,ゲンジボタル成虫個体数の年間変動がガウス関数で近似されることが判明している(井口,2013)。それを利用して,私と竹内辰朗さんが,ほたるの森のゲンジボタル個体群の経年変動を調べたところ,3年周期の個体数変動を発見した(井口・竹内,2016)。その後,志賀高原・石の湯のゲンジボタル集団では,4年周期の個体群変動が認められた(井口,2017)。何らかの要因で,各地のゲンジボタルに複数年周期の個体群変動が存在する可能性がある。遊磨(2014)は,京都のゲンジボタルの個体群変動の要因を重回帰分析したところ,日最低気温が強く影響していることを発見した。しかしながら,守山と志賀高原の個体群変動の要因は,まだ明らかになっていない。

参考文献

井口豊(2013)志賀高原・石の湯におけるゲンジボタル成虫の出現パターン.全国ホタル研究会誌 46: 26-28.

井口豊・竹内辰郎(2016)滋賀県守山市の「ほたるの森」におけるゲンジボタル個体群の経年変動.全国ホタル研究会誌 49: 15-17.

井口豊(2017)志賀高原石の湯におけるゲンジボタル個体群の経年変化.全国ホタル研究会誌 50: 1-2.

遊磨正秀(2014)ゲンジボタル成虫の野外での生残率と気候.全国ホタル研究会誌 47: 7-10.

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