生物科学研究所研究報告
2018年10月30日
岡谷市看護専門学校(旧塩嶺病院)直下の活断層
井口豊(生物科学研究所)
長野県岡谷市で,かつての塩嶺病院は,平成26年度から,岡谷市看護専門学校として開校している。
看護学校設置以前から,塩嶺病院ほぼ直下には活断層が推定されることが,澤祥・他(2007)の研究で分かっていた。この論文の第 5 図で F21 と命名された塩嶺断層がそれである。
この地域は,従来,塩尻峠ギャップと呼ばれ,糸魚川-静岡構造線の中でも,活断層が存在しない区間とされてきた(宮越ほか,2004)。しかし,最近の詳細な調査で,ここにもやはり活断層が確認されたのである。この結果は,地球惑星科学関連学会2007年合同大会でも,塩嶺病院付近を通る活断層として発表された(渡辺満久ほか,2007)。さらに,私の野外調査でも,看護学校の南西側の小丘に,断層が見つかっている(井口,2013)。
この F21 断層は,松本市にある有名な活断層,牛伏寺断層の南方延長上にあたる。
文部科学省・地震調査研究推進本部によると,牛伏寺断層は今後 30 年以内に M 7.6 程度の大地震が 13-30% の確率で発生されると推定されている(今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧 平成30年2月9日現在)。この地震発生確率は,国内トップクラスであり,第一級の活断層と言える。
岡谷市議会でも,同学校直下の活断層の存在について,議題に取り上げられたが,調査が全く行なわれないまま,看護学校は建設され開校した。原発でさえ,活断層の特定は難しい,というのが,市側の説明であった(活断層「塩嶺断層」の調査に対する岡谷市の対応)。
このような活断層系の直上に,1億円以上もかけて公共施設を作ることが望ましいと言えたか,はなはだ疑問である。
隈元・中田(2011)が,「活断層直上の教育施設の建設禁止,活断層直上の既存の施設を使用禁止が現実的なものである」と指摘したように,学校を新たに設置するなら,前もって地質・地盤調査を十分に行うことが必要であろう。少なくとも,まず地震や耐震建築の専門家の助言を受けるべきだと思うが,私の知る限り,そのような話を聞かない。
中田(2008)のように,学校や病院などの公共施設の設置・建設には法的規制が必要,と主張する活断層専門家がいることも知るべきである。
岡谷市で発掘された糸魚川―静岡構造線に伴う活断層に関しては,岡谷市で発見された糸魚川-静岡線に関連する活断層:岡谷市役所-敬念寺断層のページを参照して欲しい。
<文献>
井口豊(2013)長野県岡谷市の塩嶺西山地域における断層と地すべり地形. 日本活断層学会2013年度秋季学術大会講演予稿集: 60-61. PDF
糸静線断層帯重点的調査観測変動地形グループ(2008)糸魚川-静岡構造線断層帯変動地形資料集 No.2 中北部(松本-茅野間)PDF
宮腰勝義ほか(2004)地震規模評価のための活断層調査法・活動性評価法.電力中央研究所報告 U46.
隈元崇・中田高(2011)活断層直上に位置する教育施設-その特定と対策-.日本活断層学会2011年度秋季学術大会講演予稿集,O-01.PDF
中田高(2008)活断層研究の将来について.活断層研究 28: 23-29. PDF
澤祥ほか(2007)糸魚川-静岡構造線活断層帯中部,松本盆地南部・塩尻峠および
諏訪湖南岸断層群の変動地形の再検討.活断層研究 27: 169-190.PDF
渡辺満久ほか(2007)糸静線活断層帯の「塩尻峠ギャップ」への疑問.地球惑星科学連合2007年大会予稿集,S141-005.