生物科学研究所 井口研究室
Laboratory of Biology, Okaya, Nagano, Japan
生物科学研究所研究報告
2018年10月30日
活断層「塩嶺断層」の調査に対する岡谷市の対応
井口豊(生物科学研究所)
岡谷市では,旧塩嶺病院の直下に活断層が推定されるにもかかわらず,看護専門学校が建設された(岡谷市看護専門学校(旧塩嶺病院)直下の活断層)。この問題は,岡谷市議会 平成 25 年第 1 回定例会の一般質問でも取り上げられた。
今井秀実議員(共産党)が,敷地内の活断層調査の必要性に言及し,市役所の宮坂総務部長が答弁した(岡谷市民新聞,2013年3月10日版でも報道)。
今井議員の質問に対して,宮坂総務部長の答弁要旨は,以下のようなものであった。
- 産業技術総合センターのデータベースに活断層が示されている
- 国土地理院の都市活断層図には明記されていない
- 調査しても活断層を特定するのは難しい
- 直ちに大きな危険性を判断するのは難しい
要するに,調査する前から問題を放棄していたのである。しかも,調査しても特定が難しい例として挙げられたのが,原発敷地内の活断層なのである。
ここでは,便宜上,この活断層を「塩嶺断層」と呼ぶことにする。9月6日のブログでも言及したが,この塩嶺断層は,ごく最近見つかったものである。都市活断層図に載っていなくて当然である。逆に言えば,速報性に優れた産総研のデータベースのような存在こそ重要なのである。
その活断層データベースで活断層の位置が見られるので,住民は是非参考にしてほしい。塩嶺病院一帯の地層が,西北-東南に延びる複数の活断層によって切られているのが分かるだろう。
実は,塩嶺断層については,名古屋大学を中心とした変動地形研究グループの「糸魚川-静岡構造線」活断層情報ステーションにも示されている。
もし,オンラインで地図の見方が分からなければ,以下のPDF資料をダウンロードして見ると良い。
糸魚川‐静岡構造線断層帯変動地形資料集
No.2 中北部(松本-茅野間)
(平成20年1月刊行,平成22年3月修正)
この資料のp.14の写真およびp.15の地図(CN-4)を見れば,塩嶺病院のほぼ直下に活断層があることは一目瞭然である。
しかもこのデータ作成日が,平成20年1月刊行,平成22年3月修正となっている点にも注目してほしい。一方,都市圏活断層図整備一覧の51.諏訪の説明を見ると,平成10年調査,平成11年7月30日刊行となっているのである。つまり,国土地理院の都市圏活断層図は,「糸魚川-静岡構造線」活断層情報ステーションより10年も前のデータなのである。宮坂部長の市議会での答弁は,これら最近の活断層情報を軽視していると言える。
さらに,岡谷市看護専門学校(旧塩嶺病院)の下を通る活断層は,信濃毎日新聞社編集局(1998)「信州の活断層を歩く」の諏訪・岡谷断層群の記述で,p.105の地図にも記載されているのである。
これは看護専門学校建設の問題に限ったことではない。上述のとおり,宮坂部長自身が,産総研のデータベースに岡谷市の活断層情報があることを認めているのに,市のウェブページ防災情報おかやには,そのような情報源が全く示されていないのには呆れてしまう。危険な情報は,なるべく見せたくない,知らせたくない,そんな意図なのか,と勘ぐってしまう。
塩嶺断層に関して,活断層の専門家に意見を求めたり,国土地理院に最新の活断層地図情報を尋ねたりするのに,たいして時間も費用もかからないと思われる。その程度のことさえやらないのは,自然災害に対する認識が甘いと言わざるを得ない。万一,塩嶺地区で地震や豪雨による災害が起きた後に,「想定外」とは,もはや言うことはできまい。
山形県では,活断層上にある高校や警察など,県施設を公表した(山形新聞 2016年05月10日)。長野県では,上記のように,新設される看護学校の敷地内の活断層が,市議会で問題になったにもかかわらず,全く調査もされずに,新設が許可され開校されたのである。