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生物科学研究所 井口研究室
Laboratory of Biology, Okaya, Nagano, Japan
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長野ホタルの会が創立20周年: 三石暉弥先生と生物多様性保全

The 20th Anniversary of Nagano Association for Fireflies Research

井口豊(生物科学研究所,長野県岡谷市)
最終更新:2024 年 5 月 21 日

長野ホタルの会は 2013 年 3 月 19 日に創立 20 周年を迎え,創立 20 周年誌を刊行している。

長野ホタルの会・創立20周年記念誌

内容は以下のとおりである。

目次

写真で見る20年間のあゆみ ・・・ 1

創立20周年記念誌発刊に寄せて ・・・ 33

会長 三石暉弥 33/長野市長 鷲澤正一 34/山ノ内町長 竹節義孝 35/長野県環境部長 山本浩司 36/長野県環境部自然保護課長 市村敏文 37/長野市環境部長 小林 博 38/(財)和合会理事長 佐藤正平 39/志賀高原観光協会協会長 春原良裕 40/信州大学名誉教授 中村浩志 41/轟 正満 42/伊藤絹子 43/大内 徹 44/大村道雄 45/黒柳正行 46/小林 功 47/田崎サチ子 48/徳竹利一 49/堀 純子 50

第1章 あゆみ ・・・ 51

第2章 第43回全国ホタル研究大会 志賀高原大会 ・・・ 57

(平成22年7月16日~18日)
事務局報告 58
大会概要(案内冊子より) 61
されどホタル!! 志賀高原大会に感謝!! 山ノ内町長 竹節義孝 72
情報交換誌「ほ-たる来い」より 73
回想記 徳竹利一 76

第3章 情報交換誌「ほ-たる来い」 ・・・ 77

特集1 三石会長執筆のホタルの解説 78
特集2 三石会長からの報告・お知らせなど 95
特集3 会員から-ホタルや身近な自然、会への想い、全国大会の感想など 100

第4章 調査研究 ・・・ 117

ホタルの発生状況調査 118
ホタル フリートーク 122
信州ホタル保護連絡会 123
平成20年度連絡会「長野ホタルの会 活動報告」 127
技術支援による復活地の紹介 128

第5章 その他 ・・・ 137

長野ホタルの会ロゴマーク 138
受賞・賞状 138
ホタルなんでも相談室 143
全国ホタル研究会のホタル類移植に関する指針 144
長野ホタルの会会員名簿 147
長野ホタルの会会則 148
会費に関する規定 149

知らない人も多いと思うが,長野の頭文字 N を模したロゴもちゃんとある。

長野ホタルの会ロゴ

会の活動を伝えてきた長野ホタルの会情報交換誌「ほーたる来い」も,県内各地の貴重なホタル情報を伝えてきた。

20 年と言うと,人間なら,ちょうど成人を迎える年齢である。長野ホタルの会は,会長の三石暉弥先生を中心として,長野県内のホタルの保護や研究に地道に取り組んできており,特に,志賀高原のゲンジボタル Nipponoluciola cruciata (以前は Luciola cruciata) の保護研究に熱心に取り組まれた(特異なゲンジボタル生息地,志賀高原・石の湯)。そして,私の諏訪清陵高校時代の恩師でもある。

三石暉弥先生・第9回信州ホタル保護連絡会(2013年)で講演
第9回信州ホタル保護連絡会 (2013 年) で講演する三石先生

私の高校時代には,三石先生はミヤマシロチョウ Aporia hippia japonica の研究をしておられた。その頃の著書に,ミヤマシロチョウ(日本の昆虫 13,文一総合出版,1988)がある。このチョウは,亜高山帯に生息する希少種である。本書を読むと,研究史として, 1901 年に千野光茂が,八ヶ岳明治温泉付近で本種を発見した経緯が書かれている。千野に関しては,テントウムシの話題を別ページに記述した。

石の湯のゲンジボタルもまた,同じように高地に生息する貴重なゲンジボタルである。その研究に三石先生が入られたのも必然なのかもしれない。

私をホタル研究の道へ誘ってくれたのも三石先生である。そのおかげで,辰野町松尾峡の養殖ホタルが外来ホタルであることを,私は生物学的にも歴史的も解明することができた。

上記の記念誌にも取り上げられているが,長野ホタルの会のこれまでの最大の行事は,なんと言っても,志賀高原で全国ホタル研究会・第43回全国大会を開催したことであろう。

全国ホタル研究会・志賀高原大会に出席・発表した井口豊
全国ホタル研究会・志賀高原大会に出席・発表した筆者(井口豊)

さらに, 2012 年 には,阿部守一 長野県知事も招いて,石の湯ゲンジボタル鑑賞会も開催されている(志賀高原・石の湯ゲンジボタル鑑賞会 2012)。

同会の最大の功績は,これも上記ウェブページに書いたように,石の湯ゲンジボタル生息地を国の自然天然記念物指定地へと導いたことである。 石の湯は,日本一高いゲンジボタル生息地(標高約 1600m)であり,そこの成虫発生期間も日本一長い(5 月から 10 月)。 10 月末には,なんと雪が舞う状況でゲンジボタルが見られることさえある。

長野県でホタル生息地が県天然記念物となっているのは,石の湯と松尾峡の 2 ヶ所である。しかしながら松尾峡に関しては,生態を壊しても観光優先という辰野町の政策の下で,ホタル発生数ばかりを自慢する,見るも無残な外来種ホタル大量養殖場と化してしまった。それに関しては,次のウェブページを参照してほしい。

一方で,石の湯では多い日でも 100 ~ 200 匹程度しかゲンジボタルが見られず,絶滅の危機すらあったが,その小さな個体群を保護し続けてきた。

石の湯では, 20 年くらい前までは,ホタル目当ての観光客は少なく,人よりもイノシシ Sus scrofa やタヌキ Nyctereutes procyonoides に出会うことのほうが多い日さえあった。しかし今では,石の湯の全国的知名度が上がり,夏になると,修学旅行の生徒も訪れるようになり,ホタルの数より人の数のほうが多い日さえある。

しかし以前,三石先生が話しておられた,観光目的だけの商業主義的なホタル生息地にはしたくない,という思いには,私も全く同感である。

この理想を守り続けるためには,観光客も,人工イルミネーションではなく,生態系の一部を見ているのだという思いを,頭の片隅に,ほんの少しでも留めておく必要がある。つまり,生態系の保全(生物多様性保全)とは,保護する側だけの問題ではなく,それを鑑賞する側にも投げかけられた問題なのである。そうことを念頭に置かないと,志賀高原という観光地にある石の湯でも,それがたとえ国の天然記念物指定地であっても,辰野町のような悪弊を再び生み出してしまうような気がする。

2000 年代に入ると,三石先生は,長野県内のヒメボタル(Luciola parvula)の調査に精力を注がれ,興味深い形態変異を発見している。

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