logo
生物科学研究所 井口研究室
Laboratory of Biology, Okaya, Nagano, Japan
Home

ヒメボタル長野県内の不連続二型

井口豊(生物科学研究所,長野県岡谷市)
最終更新: 2024 年 6 月 20 日

1. はじめに

ヒメボタル Luciola parvula の雄(図 1)には、体のサイズに関して大型と小型の二つのタイプがあることが以前から知られている(大場 2016,草桶ほか 2022 参照)。しかし,どのような特徴を基にしてその二型を分類するか明らかになっていなかった。

ヒメボタル雄

図 1. ヒメボタル雄(長野市 飯綱高原で採集)

今回,これまで三石(2003、2004、2005、2007)が全国ホタル研究会誌に掲載した長野県における本種の形態データを多変量解析し,その特徴を探索し,その結果を論文化した。

アロメトリー式の計算には,統計ソフト R パッケージの smatr を利用し, SMA (Standardised major axis, 標準主軸) 回帰 が用いられた。

2. 長野県内のヒメボタル不連続二型

長野県におけるヒメボタル形態のクラスター分析およびアロメトリック分析の結果は,以下の論文を参照してほしい。

Iguchi Y. (2023)
Allometric approach to the two male morphs in the Japanese firefly Luciola parvula.
Frontiers in Insect Science, 3, 1230363.

結果は,次の図 2 に示すように,体サイズのアロメトリーが不連続に変化することが明らかになった。

ヒメボタルのアロメトリー

図 2. 長野県におけるヒメボタルの前胸背・体長のアロメトリー

カブトムシやクワガタムシでは,このようなアロメトリックな変化も珍しくないが,ホタル類では,ほとんど報告されていない。

この結果は,本年の全国ホタル研究会 北海道日高大会 (2023年7月14日~16日)(図 3)でも報告された。

全国ホタル研究会北海道日高大会

図 3. 全国ホタル研究会 北海道日高大会

3. 箱根との対比

大場 (1986) が示した箱根におけるヒメボタル二型と,長野県のそれを比較した研究も出版された。

Iguchi Y (2024)
Geographic Differences in Allometric Patterns of Males of the Japanese Firefly Luciola parvula.
Advances in Entomology, 12: 18-23.

大場と三石,ともに,ヒメボタルの二型に言及するが,実は異なる視点で見ていた。

4. 長野県の著名なヒメボタル生息地とトガクシソウ

長野県で著名なヒメボタル生息地と言えば,ヒメボタルとともに,ゲンジボタル Nipponoluciola cruciataヘイケボタル Aquatica lateralis が混飛する戸隠(とがくし)である(三石,2001)。その一方で,戸隠の植物と言えば, 牧野富太郎をモデルとした NHK 連続テレビらんまんにも登場したトガクシソウ(Ranzania japonica)もまた有名である。俗に,破門草とも呼ばれるようになった事件の顛末は,いくつかのウェブサイトでも解説されている(例えば,吉海直人, 東京大学植物学教室における「破門草事件」の顛末)。

5. ゲンジボタルの形態的二型

ゲンジボタルについても,群馬県と山梨県の間で,アロメトリーによる形態的二型が明らかになってきた。

関連ページ

参考文献

草桶秀夫・女川博義・宮原真樹・米沢正美・三田村佳政(2022)小型と大型ヒメボタルの生息分布と遺伝的特性.全国ホタル研究会誌 55: 23-29.

三石暉弥(2001)戸隠高原におけるヒメボタル・ゲンジボタル・ヘイケボタル混飛の様相.全国ホタル研究会誌 34: 27-30.

三石暉弥(2004)長野県内におけるヒメボタルの分布の特異性Ⅰ.全国ホタル研究会誌 37: 28-33.

三石暉弥(2005)長野県内におけるヒメボタルの分布とその特異性Ⅱ.全国ホタル研究会誌 38: 44-50.

三石暉弥(2007)新しく確認されたヒメボタルの発生地とホタルの体型からみた分布の特異性Ⅲ.全国ホタル研究会誌 40: 35-39.

大場信義 (1986) ホタルのコミュニケーション.東海大学出版会,東京.

大場信義(2016)ヒメボタルの2生態型について.全国ホタル研究会誌 49: 25-27.

Home