生物科学研究所研究報告
2024 年 3 月 16 日
Ellen Haugan さん(ノルウェー・オスロ大),辰野町松尾峡へ
Ellen Haugan from Norway to Tatsuno, Jpan, researching cultural entomology on fireflies
Summary
Ellen Haugan, a graduate student of the University of Oslo, Norway, came to Tatsuno, Japan in 2018 to explore the relationship between people and fireflies in the aspect of cultural entomology and biodiversity conservation. Based on her experience of staying there, she completed her master's thesis:
Haugan, E. B (2019)
'Homeplace of the Heart' Fireflies, Tourism and Town-Building in Rural Japan
Master's Thesis of the University of Oslo, Norway.
Reference
Iguchi Y (2009) The ecological impact of an introduced population on a native population in the firefly Luciola cruciata (Coleoptera: Lampyridae). Biodiversity and Conservation, 18: 2119-2126.
文化昆虫学と生物多様性保全の観点から
2018 年 8 月に,ノルウェー・オスロ大の院生で,日本文化専攻の Ellen Haugan (エレン ハウガン)さんが,ホタルと日本文化のかかわりについて調査研究するために来日し,辰野町に滞在した。
彼女から,来日し辰野のホタルのことを調べたいと相談があったのは,同年 5 月 14 日であった。私の研究室のウェブページ「辰野の移入(外来)ホタル 生物多様性の喪失へ」を読んで,その内容に興味を持ったとのことである。
それから約1か月,事前の情報交換をして,文化昆虫学という最近注目される学術分野がメインテーマであることが分かり,私は日本のその分野の第一人者として,高田兼太の名を挙げた。彼の活動に関しては,ツイッター Kenta TAKADA を参照して欲しい。
6 月 12 日午前 10 時に,辰野駅前で待ち合わせ,その後,松尾峡のホタル養殖地を散策しながら約 1 時間,外来種ホタルによる町おこしの経済効果や,それによる生物多様性破壊の問題などを語り合った。
ノルウェーでは,ホタルは森の奥で見られるもの,という感じで,積極的に鑑賞対象になっていないとのことである(ふと,村上春樹を思い出した)。当然ながら,外来種ホタル移入養殖の問題など起きようがなく,辰野町の問題は,ホタルと日本人,さらには,ホタルと日本文化のかかわりを研究する上で,非常に興味をそそられたようである。
彼女の口から,「日本の昆虫少年」という言葉が飛び出したのには驚いた。これも日本の昆虫文化の一端を表している。「里山の保全」という言葉にも言及しており,ホタルが日本人の身近な存在であることを再認識したようだ。前述の私のウェブページで,私が「辰野町のエコタウン化」を提言(辰野町への政策提言)したことにも興味があったとのことで,再度,それを説明した。ただし,これは辰野町が,外来種ホタル養殖を積極的に公言していくことが前提であり,なかなか理解が得られていない。
彼女には,大学院での研究論文のなかで,是非,文化昆虫学の観点から外来種ホタル移入の問題に言及して欲しい,とお願いしておいた。
松尾峡での散策・インタビューのあと,ほたる童謡公園駐車場で,記念写真を1枚撮影した。写真慣れしているのか,まるで女優だ。
彼女からは,おみやげに,チョコレートを頂いた。
辰野町での調査後は,群馬県月夜野町へ向かい,同様な調査をするとのことである。ここは, 1992 年に第 32 回全国ホタル研究会が開催された場所であり,私にとっても懐かしい場所である。
彼女の研究成果は, 2019 年に修士論文として発表された。
Ellen B. Haugan (2019)
'Homeplace of the Heart' Fireflies, Tourism and Town-Building in Rural Japan
Master's Thesis of the University of Oslo, Norway.
これは,辰野町において,ホタルが文化および観光に影響を与える正の側面と,移入外来種として生態系を撹乱する負の側面に焦点をあてた,日本では滅多に行なわれないタイプの貴重な修士研究である。
私が推薦した高田兼太の文化昆虫学論文も引用されている。
Takada, K. (2012)
Japanese interest in “Hotaru”(fireflies) and “Kabuto-Mushi”(japanese Rhinoceros beetles) corresponds with seasonality in visible abundance
Insects, 3(2), 424-431.
彼女の修士論文は,その後,以下の文化昆虫学論文にも引用された。
Prischmann-Voldseth, D. A. (2022)
Fireflies in Art: Emphasis on Japanese Woodblock Prints from the Edo, Meiji, and Taishō Periods
Insects 13(9): 775.
日本におけるホタルを含む昆虫類の文化学的な位置づけは,以下の Wikipedia 参照。