日本のカブトムシは Allomyrina か Trypoxylus か? 属名変更を巡って
井口豊(生物科学研究所,長野県岡谷市)
最終更新:2024 年 12 月 6 日
Allomyrina or Trypoxylus? A revision of the genus for the Japanese horned beetle
Yutaka Iguchi
Laboratory of Biology, Okaya, Japan
Last update: November 5, 2024
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DOI: 10.5281/zenodo.14038791
生物科学研究所ブログに書かれていた内容をここに移転し,再掲する。引用文献は,文末に一括掲載した。
文化昆虫学者である高田兼太が調べたように,カブトムシは,甲虫類の中でも日本人が好きな虫として,ホタルと双璧を成している(Takada, 2010)。そのカブトムシの属名変更を巡って起きた問題がある。以下のサイトにも書かれたように,特に海外では,混乱が大きかったようだ。
BeetleForum.Net
Genus Allomyrina vs. Trypoxylus
現在,少なくとも日本国内では,日本のカブトムシの属名には Trypoxylus が使用されているし,私の最近の論文でもそうである。しかしながら以前は,これが Allomyrina であった。つまり,属名が変更されたのである。
ところが,この属名変更に反対した分類学者がいる。 Ratcliffe 博士もその1人である。
彼は,書評である Ratcliffe (2008) で,以下のように主張している。
Trypoxylus is a junior synonym of Allomyrina.
実は以前,彼からメールをもらったときも,かなり厳しい調子で,同様なことを主張されていた記憶がある。
そもそも事の発端は,私の知る限り,三宅 (1998) が日本鞘翅学会(現在は日本甲虫学会 )の甲虫ニュースで Trypoxylus の使用を提唱したことにあるらしい。
ところが,この論文は,分類学上で重要な変更を伴う内容にも関わらず,全て日本語で書かれていた。しかもこの雑誌は,どちらかというとマイナーな雑誌なのである。もちろん,甲虫ニュースは,国内では全国規模で読者がいる和文誌なのだが,それでも,世界規模で言えば,マイナーな雑誌であり,その中の日本語論文である。これでは,外国人が読む機会も少ないのではないかと思われる状況であった。
これに対して,野村 (1999) は,月刊むし
の年間レビューで,是非きちんとした分類学的論文の中で明確にしてほしい
(p. 41),と要望した。
私も当時,全く同感あり,そうしなかったことが,少なくとも海外では, Allomyrina か Trypoxylus かと言った混乱を生んでしまったように思った。
これは,プロ,アマ問わず,生物分類を研究している,あるいは,研究しようとしている人たちには,心に留めておいてほしい事案である。
関連サイト
- カブトムシ雄の角長と闘争頻度について
DOI: 10.5281/zenodo.14134052 - カブトムシ雌の闘争行動と同性間マウンティング
DOI: 10.5281/zenodo.14281281 - Intrasexual behavior in beetles カブトムシ雌の同性間配偶行動
参考文献
野村周平 (1999) 甲虫界.月刊むし 339: 30-48. 特集 1998 年の昆虫界をふりかえって
三宅義一 (1998) カブトムシの属名について. 甲虫ニュース 123: 6-7.
Ratcliffe B. C. (2008) Book Review. Atlas of Japanese Scarabaeoidea. Volume 2. Phytophagous Group I. Coleopt. Bull. 62(1): 63-64.
Takada K. (2010) Popularity of different coleopteran groups assessed by Google search volume in Japanese culture-extraordinary attention of the Japanese to "Hotaru" (lampyrids) and "Kabuto-mushi" (dinastines) (Cultural entomology). Elytra 38: 299-306.