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生物科学研究所 井口研究室
Laboratory of Biology, Okaya, Nagano, Japan
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生物科学研究所研究報告
2019年4月19日

ルイヨウマダラテントウと気候温暖化:最終氷期以降の残存種として

井口豊(生物科学研究所)

Research Report of Laboratory of Biology
April 19, 2019

Effect of Climate Change on the Distribution of Epilachna yasutomii (Katakura)

Yutaka Iguchi
Laboratory of Biology

かつて富岡(1986)は,ルイヨウマダラテントウ Epilachna yasutomii がグリーンタフ変動を受けなかった地域の残存種であると考えた。しかし私は,その分布パターンが,第四紀最終氷期以降の地形や気候変動の影響を受けていると考え,最終氷期以降の残存種だろうと推定した(井口,1988)。 特に,東京西郊型と呼ばれるタイプは,明治時代以降の気候温暖化や社会変化(例えば,ジャガイモ栽培の活発化)の影響を受けているだろうと考えた。

この私の説には,当時ほとんど反響はなかった。しかしその後,佐藤仁彦が,オオニジュウヤホシテントウの分布要因の一つは気温であることを示した。また,片倉晴雄は,気候温暖化がルイヨウなどのテントウムシの種分化の要因になっていると解説した。 これら佐藤や片倉の研究結果を見ていると,上記の私の指摘も間違っていないと分かる。テントウムシの食性や分布を探ることで,地球温暖化の歴史や未来像が見えてきそうで興味深い。

日本の文化昆虫学の第一人者,高田兼太(Takada, 2013)による,尼崎市のケーキハウスショウタニ武庫之荘店の「柚子とホワイトチョコのムース」のテントウムシのトッピング関する論考を読んで,ふと上記の私の論文を思い出した。 なお,東京西郊型の伊豆半島付近の分布について,もし第四紀中期以前に遡って考えようとするならば,プレートテクトニクスに基づく伊豆半島衝突説も考慮に入れる必要が出てくる。上記の富岡(1986)の仮説は,生物地理に与えるプレート運動の影響を考慮に入れてないので,この点でも不十分だと言える。

関連ウェブページ

伊豆諸島の生物地理とプレートテクトニクス

参考文献

井口豊 (1988) ルイヨウマダラテントウの分布パターン.昆虫と自然,23(12): 30-32.

Takada, K. (2013) Ladybug-shaped chocolate on a mousse cake bought at a bakery in Amagasaki City , Japan. Elytra (new series) 3(1): 195-198.

富岡康浩(1986) 「東京西郊型エピラクナ」の起源およびルイヨウマダラテントウの食性の地理的変異について.昆虫と自然,21(11): 18-21.

その他のテントウムシ関連のページ

ナミテントウ(Harmonia axyridis)と千野光茂博士

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