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生物科学研究所 井口研究室
Laboratory of Biology, Okaya, Nagano, Japan
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協働的学びの場としてのワークショップにおける対話支援に関する研究(水上聡子)

水上聡子(2017)
協働的学びの場としてのワークショップにおける対話支援に関する研究
福井大学大学院工学研究科システム設計工学専攻・学位論文[博士(工学)].

まちづくりの人材育成のために,ワークショップ(workshop)を開催するとき,その有用性を検証した水上聡子(アルマス・バイオコスモス研究所)の博士論文である。今後,工学系を目指す高校生にも学んでもらいたい分野でもある。

これは工学博士の学位論文である。一般的には,工学と聞くと,「物作りの分野」というイメージが強いかもしれない。しかし,これは工学分野でも「人づくり」に貢献できることを実証した優れた論文である。

また,これは対話を対象にした室内研究と捉えられるかもしれない。しかし,私はフィールドワークの一種だと思っている。人の意識が移り行く原野を,水上氏は訪ね歩いたのである。

なお,この学位研究の動機を知るには,その先行研究としては,水上ほか(2012)も参考になる。

今回の学位研究では,市民がワークショップを通じて,「学びの形態」と「学びの営み」を展開し,その結果として,彼らが主体的行動変化を生み出すと考えた。ここで言う「学びの形態」とは,自分,周囲,講師との対話であり,「学びの営み」とは,共存,内省,物語,傾聴,分ち合い,承認である,と定義づけられた。

それを検証するために,ワークショップの前後での自己評価スコアを分析したのである。

学びの営みの中で,物語という項目があるが,これは,p.20表2に書かれたように,「自分の体験に基づいて,自分の考えを語ること」である。この意味で,storyと言うより,narrativeと言ったほうが良いかもしれない。

話が脇道にそれるが,この物語(narrative)が,住民参加による政策決定おいて,重要な要素であることを指摘した論文としては,例えば,藤井ほか(2013)がある。

物語と聞いて,ふと,レヴィ・ストロースの名前が思い浮かんだが,やはりあった。上記の著者のひとり,藤井による論考があった(藤井ほか,2011)。なお,藤井らによる,これらの研究もまた工学系の論文として発表されていることにも注目したい。

また,水上氏と私との間で,南方熊楠の話題が出たことがあった。そのとき,南方が研究において対話を重視した,と鶴見和子(1981)が述べている,と私が指摘したら,水上氏は驚かれた。鶴見氏は,水上氏の母校・津田塾大学の出身だと言うのである。津田塾大学では,対話重視の教育が行われてきたのだろうか,と思わず推測してしまった。

話を戻そう。

水上氏の研究においては,様々なデータが多角的に分析された。その過程で,私もいくつかの助言を水上氏に与えた。私は分析のヒントや計算方法を与えたに過ぎず,分析自体は水上氏が実行したのであるが,論文終わりp.112に,丁重な謝辞を頂き,私は今でも恐縮している。

この分析結果の中で,私自身が非常に興味を覚えたものがある。それがクラスター分析であった。

この研究では,ワークショップを通じて,参加者の意識や行動がどのように変化したかを,参加者自らが評価した。水上氏は,その結果を集計するだけでなく,多様な観点から統計学的に分析したのである。

このとき問題となったのが,学びの営みの6つの行為において,どれとどれが関連するだろうか,ということであった。

水上氏に対して,私はクラスター分析を提案した。すると,p.63の図3に示されたように,項目間で,興味深いペアが出来上がった。

「共存」と「承認する」
「内省」と「承認される」
「傾聴(全体)」と「分かち合い」
「物語(ペア)」と「傾聴(ペア)」

前 2 者の結果について,「承認する,される」という反対向きのベクトルが,「共存と内省」という要素に結びついたとは,おそらく参加者自身も気が付かなかったと思う。

また,「全体での傾聴」が「分かち合い」と結びつき,「ペアでの物語と傾聴」が結びついたことも明確に示された。

おそらく,ワークショップに参加することの意義を分析した研究で,このようなクラスター分析を実施した例は少ないであろう。クラスター分析では,距離の定義やクラスターの束ね方に,いくつかの方法がある。したがって,クラスター分析の適用には注意が必要だが,そのことがまた,思いがけない結果を生む利点ともなっている。

ワークショップ参加の効用を測るのに,個別の項目の分析だけでなく,複数項目間の関連性を探ることで,参加者本人も気づかないと思われる学習経験を表出させることが可能となる。ワークショップ開催者も,単純にアンケートを取り,集計するだけでなく,水上氏の研究のような分析を是非試みていって欲しいものである。

水上氏は,近年では,環境教育問題の実践的研究に取り組んでおり(水上,2021),そのデータ解析にも私の研究所が支援している。

ちなみに,水上氏が所属するアルマス・バイオコスモス研究所の名称「アルマス」は,昆虫記で名高いアンリ・ファーブルの自宅敷地であり,彼の研究場所でもある地の名称に由来する。

参考文献

藤井聡・長谷川大貴・中野剛志・羽鳥剛史(2011)
「物語」に関わる人文社会科学の系譜とその公共政策的意義
土木学会論文集F5, 67(1): 35-45.

川端祐一郎・藤井聡(2013)
ナラティブ型コミュニケーションの性質と公共政策におけるその活用可能性の研究
土木計画学研究・講演集,47.

水上聡子・粟原知子・桜井 康宏(2012)
ワークショップにおける内発的動機づけプログラムに関する研究
日本建築学会技術報告集,18 (38): 381-386.

水上聡子・桜井 康宏(2013)
協働的学びの場としてのワークショップにおける対話支援に関する研究-内発的動機づけに着目して-
日本建築学会計画系論文集,78 (685): 735-744.

水上聡子・高橋敬子(2021)
福井県版 「気候変動ミステリー」 を用いた教育プログラムの可能性-シティズンシップ教育における内発的動機づけとコンピテンシーの視点から
環境教育 31(1): 23-32.

鶴見和子(1981)
南方熊楠
講談社学術文庫

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